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『宮廷画家ゴヤは見た』 Goya's Ghosts

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(2006年 アメリカ) 監督:ミロス・フォアマン

公式サイト:http://www.goya-mita.com/

 ミネリに誘ってもらって試写会で鑑賞。観たかった映画だったので嬉しい。

 18世紀末の動乱のスペインで、豪商の娘と神父が異端審問所で出会う。宮廷画家だったゴヤは、二人の関係と行く末を知ることになる。
 『アマデウス』のミロス・フォアマンが監督する時代物となれば期待しないわけにはいかないでしょう。しかも題材がゴヤ! 私にとっては「マハ」よりも「黒い絵」の印象が強い画家だ。

 映画の中で最大に魅力を発揮しているのは、やはり神父ロレンソであろう。権力に感化されて、すぐに阿る姿勢はとても人間味にあふれている。彼の一貫性の無さを描いていくことで、人間の弱さがじわりじわりと浮き彫りにされていく。
 異端審問に拷問を用いることを声高に主張し、異教徒の摘発には容赦無い。しかし、ゴヤが量産している風刺画には寛容であったり、純血の誓いをしているにも関わらず女にも興味があって俗物らしい側面も見せる。
 結局、彼のやってきた悪しきことは、彼自身にすべて返ってきてしまう。でも、私には彼を否定することはできない。誰しも権力の甘い汁を吸いたいし、快楽には身を委ねたいだろう。演じるハビエル・バルデムのハンサムで艶っぽく狡猾な顔つきが、神父ロレンソの悲哀をよりいっそう強調している。
 そんな彼だが、ラストシーンでは意外な選択をする。この選択については色々な解釈ができるだろう。

 ヒロインはナタリー・ポートマン演ずる令嬢イネス。しかし、美しい彼女を期待して鑑賞すると落胆することになる。詳細はあえて書かないが、女優として体当たりのすばらしい演技をしていた。
 宮廷画家のゴヤからは天使の絵のモデルになってくれと言われるほどの美貌、町でも有数の大商人の家に生まれたという何不自由無い生い立ち、しかし物語が始まって間もなく彼女の人生に影が落ちはじめ、最後には見るも哀れな姿を披露する。
 しかし、どんな運命が彼女に襲いかかろうとも、彼女は最後まで純真であり、無垢な心を持ち続ける。そういった意味では神父ロレンソと表裏一体となっている。

 どん底でも純真な令嬢イネス、豪奢な生活を送りつつも利己的な神父ロレンソ。その二人を見つめているのが画家ゴヤの目だ。宮廷画家として王と王妃の肖像を描く一方、街に出てスケッチを欠かさず教会権力を風刺する銅版画(=エッチング)を量産する(アトリエでの銅版画メイキングシーンは非常に面白い!)。
 物語の中盤から、病気によってゴヤは聴力を失う。同時にスペインは動乱の時代を迎える。世の中の混乱を、ゴヤは克明に描き続ける。
 ラストシーンでゴヤが見るのは、愛情に満ちているがとても悲しいシーンだ。子供たちの歌声の明るさが、悲哀をさらに強調する。

 実際のゴヤの人生や描いてきた絵も興味深いものなのだが、映画の中のゴヤはあくまで観察者として存在しているのが面白い。劇中に多数引用されるゴヤの作品が、架空の筈のロレンソとイネスの物語に深みを与えている。
 オープニングとエンディングでゴヤの作品をたっぷり見せてくれたおかげで、ゴヤに対する興味がふつふつと沸き、映画を観た後はすっかりゴヤの画集や伝記を読みたくなってしまった。美術好きな人にはそういう意味でおすすめである。

 ラストはすっきりしたハッピーエンドではないので、くれぐれも体力と精神力が衰えているときには観ない方がいい。
 演技派の俳優が揃っており、美術などの完成度も高い。豪華な中世の王侯貴族の描写はさすが『アマデウス』のミロス・フォアマン監督である。観た後には人間と権力と愛について、いい意味で考えさせられるだろう。いかに「神」や「自由」といった言葉が便利に遣われてしまうものか。
 集中して見た方が楽しめる映画なので、映画館で見ることをおすすめする一本だ。凄まじい描写力のゴヤ作品も、細部まで見えるしね。

 10月4日(土)より全国ロードショー。

↓ゴヤについては、この本が図版もたっぷりでわかりやすかった。

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2008年9月26日 23:19に投稿されたエントリーのページです。

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