母のノートパソコンが壊れたのは今月頭のことだった。英国に帰国する際に、機内に持ち込んだはいいが、「前の座席の下」ではなく「頭上の物入れ」に入れたのが原因と思われる。12時間のフライト中、揺れることもあっただろう。物入れの中でPCが前後左右の壁にぶつかっている様子は想像にたやすい。
帰国してPCの電源が入らずいらだった母は、それが声音に反映しつつ電話をかけてきたのだった。
「メールが使えなくて困っちゃうのよ!」
「母さんの夫のパソコン借りたらいいじゃない」
母は英国人の夫と再婚している。
「彼のパソコンだと日本語が使えないのよ! 調べものは英語でもなんとかなるけど、メールは日本語が使えないと困る!」
「おぉ、英語の勉強になってよかったね」
「真剣なんだから、茶化さないで!」
母がすべての語尾に感嘆符をつけているのは理由がある。
あらゆる機械が苦手な母とて、PCが壊れたまま放置していたわけではない。英国にある日本人が経営するパソコンサポート会社に持って行ってみたり、PCの製造元であるLenovoに国際電話をかけて「シリアル番号は? モデル名は?」などと呪文のような言葉に必死で対応してみたり。彼女なりにがんばったんだと思う。
しかし、結果的にPCは直らなかった。そこで母にはいくつかの選択肢が生まれる。
・英国でPCを買って日本語OSをインストールする。
・日本人が経営するパソコンサポート会社が売っている日本語対応PCを買う。
・日本からパソコンを送ってもらう。
母はPCで困ったことがあると、ほぼ間違いなく私に国際電話をかけてくる。電話で日本語OSのインストールを指示するだなんて、あまりにも不安要素が多い。しかも、私が使い慣れているMacならともかく、WIndowsである(WinのOSインストールなんて、一度もやったことがない)。
パソコンサポート会社が売っている日本語ノートPCは「高級」と「汎用」の2種類いずれかしか選択できず、高値である。関税がかかるので仕方ないけれど、日本で買う1.8〜2.5倍はついている。しかも、型落ちしたような機種で魅力的ではない。
日本からの郵送(or国際宅配)は現実的だと思ったのだけれど、母は頑固に嫌がった。「ここは日本じゃないのよ! いい加減なイギリス人が配送してるんだから! いくら"FRAGILE(こわれもの)"のステッカーがあっても、玄関先でボトッと落として壊したりとか、そういう恐ろしいことがありえる国なのよ!」
私は第四の選択肢を考えた。
当面は「帰国売り」の安い中古でしのいで、次回日本に里帰りした際に新しいPCを買えばいいのではないか?
「帰国売り」とは、外国に住んでいた日本人がなんらかの理由でその国を去る際に、持って帰らない荷物を在外邦人仲間に売るというものである。裕福な日本人留学生あたりを探せば、状態のいい新しい中古が手に入るのではなかろうか?
しかし、母はそれも嫌だという。理由は「そんなの、また壊れたらますます困るじゃないの!」。
いい加減に相手をするのも疲れてきて「パソコン買いに日本に来れば」と言ってやろうとした矢先、母は一番恐れていた第五の選択肢を持ち出した。
「有が日本で買ってロンドンに持って来てくれると一番いいんだけどぉ」
ようやく語尾から感嘆符が無くなったと思ったら......。なにかあるとすぐに私をロンドンに呼び寄せようとするのが、母の悪い癖である。『泣く子と地頭には勝てぬ』ではないが、母の懇願には弱いのが私の悪い癖だ。
「なるべく早く来てね♪」
かくて、来月初旬の渡英が決まり、ノートパソコン本体も無事に購入できた(購入時にもいろいろとあったんだけど、それは省略)。
私の渡航費、パソコン本体の購入費、もろもろを合わせるとそれなりの金額になるのだけれど、それでも母は私を呼び寄せたいらしい。そして、そこまでされると私も母を喜ばせたくなってしまうのでしようがない。短期間だけれど、楽しんでくるとしよう。

↑現在メールが使えない母に旅程を連絡するために送ったFAX。ヒマじゃないのになにやってるんだか。
コメント (2)
有こんにちは。おひさしぶりです。
ご主人のBLOGから、有のBLOGを発見しおじゃましました。
おかあさまとのよい関係、ステキです。
うちの母は今日、グループ展を終え、今搬出の真っ最中です。
今年のモチーフはイチゴ、フルーツバスケットの2点でした。
絵、歌、ダンス、帽子作りなど、母は習い事や外出の多い毎日を過ごしています。
家でじっとしている姿をあまり見かけません。
投稿者: sunny | 2008年7月 6日 15:16
子供の頃から母にベッタリ懐いていたせいもあって、
いまだに母の頼みには弱いのです。
sunnyさんのお母様もアクティブでいらして何よりです!
創作的な趣味を多く楽しまれているようで、すてきですね〜♪
投稿者: 有 | 2008年7月17日 12:32