(2000年 アメリカ)監督:アダム・リフキン
先日、Steve&サトミさんの家でイングランド初戦を見た後、背後でなにげなく付いたままのTVに映し出されたのは、70年代後半臭がぷんぷんと漂う写真とKISSの演奏シーンだった。一瞬、ビデオクリップか何かかと思いつつも、それは横目にダイニングテーブルを囲んでサトミさんとおしゃべりを続ける。彼女お手製のタンドリーチキンをほおばりながら、ついつい画面が気になる私。ソファに並んで座り、画面を食い入るように見ているのはSteve(42歳)と息子のJules(20歳)。どうやら、画面に映っているのはビデオクリップではなく映画のようだ。
画面の中ではアメリカ人高校生と思しき男の子たちが誰かの部屋でバンドの練習をしている。服装や部屋の様子から察するにKISSのコピーをやっているようだ。現実世界でソファに座って映画に興じるロック好きな父子は、時おり声を揃えてバカ笑いしている。タンドリーチキンはおいしいけれど、おしゃべりも楽しいけれど、あの映画は何だ?
「サトミさん、なんかKISSがTVに出てすごく気になるんだけど」
「あら、この映画知らないの?」
知らないよ、と答えようとした瞬間、映画の背景の音楽が急に悲しげなクラシックに変わった。学校の廊下の影から何かを見守る先ほどの男の子達、どうやら彼ら4人が主人公のようだ。その視線の先にはベンチに座った一人の中年女性。多分、主人公の誰かの母親だろう。
音楽の悲哀漂う盛り上がりとともに、母親は手に持った何かに火をつける。主人公達の表情がみるみる歪む。点火されたソレを、母親は目の前の灰皿にぽいと捨てる。音楽は最高潮に悲壮な響きを奏でる。
ソレはコンサートチケットだった。「KISS」の文字が読める。そうか、この男の子達はKISSのライブに行く予定だったのに、チケットを燃やされてしまったんだ。TVの前で大爆笑しているSteve父子。
「面白いよ、この映画。有ちゃんも観るべき」笑い転げる自分の夫と義理の息子を眺めながら、サトミさんは言った。とはいえ、そろそろ日付も変わる時刻だというのに、いつまでも他所のお宅にお邪魔するわけにはいかない。このまま続きを観たい気持ちを押さえて、週末の楽しいホームパーティーから帰路に着いたのだった。もちろん、映画のタイトルを聞くことは忘れなかった。
かくて、私は数日遅れてビデオ屋で『デトロイト・ロック・シティ』を借りることに成功。今度は我が家の居間で最後まで楽しむことにした。
物語は1978年のアメリカの田舎町から始まる。高校生4人組は親の目を盗みながらKISSを崇拝し、コピーバンドを組んでいる。そして、いよいよ今日は待ちに待ったKISSのデトロイト公演というその時、母親の一人がそのチケットを燃やしてしまうのだ。「神を冒涜する悪魔の音楽は許さない」。
人の愛と情熱はそんなものにはくじけない。チケットが無かろうが、なんとかデトロイトに行って自分たちの目と耳でKISSのライブを体験するんだと、青春の試行錯誤が始まる。そう、映画の中は青春の香りでいっぱい。70年代だから、ドラッグだってセックスだって出てくるんだけど、どれも青春の香りに包まれているので、なんだか懐かしいようなかわいらしいような、幸せな気分になるのだ。KISS世代ではない私でも楽しめたのは、そんな青春の名残を感じられたからだろう。
ラストはおおよそ予想がつくのだが、その過程が凝っていて面白い。反復する伏線や、いい味の脇役たち(ディスコ派のイタリア人ヤサ男、男性ストリップバーのマッチョなバーテン、ばっちりエースのメークでキメた子供、etc..)が、うまく最後に収束していく。
ひさしぶりに楽しい映画を観られて満足。偶然から、こういういい映画に出会えると楽しい。
