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英国旅行六日目(その3):The Phantom of the Opera

さて、満腹になったところで散歩がてら本日最後の目的地へ。
そこはHer Majesty's Theatre。
そう、ミュージカル『The Phantom of the Opera』が上演されている劇場だ。

1986年にここで初演されて以来、20年近くロングラン上演が続けられている。
日本では劇団四季による『オペラ座の怪人』として有名になり、
今年初頭に映画も公開されたが、オリジナルはここなのだ。

当時妻であったサラ・ブライトマンのために、作曲家ロイド・ウェバーが作ったミュージカル。
『CATS』の成功により、二人の人気と実力と才能が絶頂であった頃。
その舞台の演出は奇跡とも言えるもので、10年経った今でも色あせない。
もちろん、少しずつ変更されていってはいるのだが、基本の演出は同じである。

幸運にも私はこの舞台を何度か見ている。
以下、舞台に関するネタバレを少々含むので、気にする方は読まないでください。

一番最初にこのミュ−ジカルに触れたのは実は音楽からだ。
中学生の時、ある吹奏楽のコンサートに行った。
それは私の通う中学の上級学校にあたる高校の吹奏楽部と、
アメリカ・イエール大学の吹奏楽部とのジョイントコンサートだった。
そこで、イエール大が演奏したのが
『The Phantom of the Opera』の吹奏楽アレンジだった。
初めてあの半音階の印象的なメロディーを聞いたときのショックは忘れられない。
すごい、単純なのにこんなにかっこいい。
当時、中学の吹奏楽部でフルートを吹いていた私は、
サビだけ耳コピして吹いたものだった。

ようやく舞台を観たのは高校生の時、真っ当に劇団四季版を名古屋の中日劇場で。
高校生だったこともあり、チケットはC席。
冒頭のオークショニアの姿も見えず、オープニングもいまいちだ。
もちろんシャンデリアのあのシーンもよくわからない。
こういった見えにくい席は本来リピーター向けのものだと思っているので、
初見でそれでは本来の良さがわからない。
ただ、ファントム役の山口裕一郎の声の良さだけは今でも覚えている。

初めてロンドンで見たのは18歳の時。1993年。
高校を卒業し、初めて渡英した時のこと。
この時のチケットは日本でいうところのB席のグランド・サークル。二階席。
すばらしかったのだけど、あまり印象に残っていない。
むしろ、『CATS』の方が楽しくて、二回観てしまったほどだ。

二回目は21歳。私は大学生。1995年。
時効なので正直に書くが、二回目の渡英はKと一緒だったのだ。
航空券の安い初春の頃、二人でリターンチケットを取るべく並んだ。
リターンチケットとはキャンセル分の当日券で、
毎日決まった時間になると売り出される。
列の最初から2〜3組目に並べると、確実に一番いい席、
つまりストールズもしくはロイヤル・サークルが買える。
ストールズは舞台にかぶり付きで観られる最高にいい席だ。
もちろん値段も一番高いのだが、それでも劇団四季のS席よりは安くて、一万円もしない。

無事にストールズのチケットを手にしたKと私は、日本では大学の演劇部の部員でもあった。
私が宣伝美術とメイク、Kは音響効果を担当していた。
よくもわるくも若さが見え見えの学生芝居だったが、私もKも夢中で芝居を作っていた。
そして、舞台というものにどれだけのコストと手間と時間がかかるのかを身をもって知っていたのだ。

そんな目で見ると、この劇場のすごさに鳥肌が立つほどだった。
すべて絨毯張りの劇場内は入口から客席にいたるまで、ゴシックな金と赤の装飾に覆われている。
通路の照明ひとつとっても味気ないシーリングではなく、
優美な曲線の真鍮の茎から伸びた花の形のガラスシェードの柔らかい白熱灯だ。
客席に入ると、オペラ座もかくやというばかりの豪華な壁面。天井。
バルコニーもボックスシートも渦巻く金の飾りが彫刻され、
壁際に立つスタッフでさえウエストコート(イギリスではベストと呼ばない)と
絹のネクタイでかしこまっている。
けして、ダサいポリエステルのスタジャンや「STAFF」と大書きされたTシャツではない。

席に座り、天井の高さと内装の美しさに周りを何度も見回す。
オークションから始まるプロローグ、
そして文章では絶対に表現できないすばらしいオープニング。
Kも、私も、時間がとまったかのように、文字通りしびれてしまったのだ。
この時、初めて私はこの舞台をきちんと味わったような気がする。
迷わずCDを買い、パンフレットを買い、Tシャツまで買ってしまった。

三回目と四回目も年数を置いてやはりロンドンで。1997年と2000年。
何度見ても新たな感動を味わう。

そして今回は五回目。5年ぶり。
この夏にファントム役者が変わったそうで、とても楽しみだった。
5年ぶりのHer Majesty's Theatreは何度見ても重厚で、それだけで舞台装置として機能している。
さすがに五回目ともなると、脇の小芝居を見て楽しむ余裕もあるというもの……という筈だったが、
やはりそこはOpera Ghostの罠、
目が行ってしまうのよ、ファントムに、シャンデリアに、リンゴに。
今回のクリスティーヌは私が見た中では一番良かったのも嬉しかった。
かわいらしく、歌もうまく、それでいてコケティッシュで。
叫ぶ時、泣く時、嫌がる時、喜ぶ時、それぞれがとてもかわいい。
ファントムも良かった。
以前はファントムというと全身で感情を表し、ともすれば気障すぎる時もあったのだが、
今回のファントムはにじみ出るような演技が哀しみをより深く表していた。

よく考えたら来年は20周年なので、きっといろいろとイベントがあるだろう。
私が次に行けるのは恐らく再来年以降だが、
そのときはガストン・ルルーの小説を読んでから見に行こうと思う。
また、新たな発見や感じ方がありそうで楽しみだ。

これから見に行く人は、初見ならぜひ一階席の真ん中あたりを狙ってほしい。
初見は一生に一度しかないのだし、ぜひ一番いい席で楽しむべきだと思う。
リピーターは三階席でも柱の後ろでも、どこでもお好きにどうぞ。

最後に、ロンドンのミュ−ジカルもバレエもすべて音楽は生のオーケストラ演奏が常識だが、
もちろんこの『Phantom of the Opera』もそうだ。
カーテンコールのあと、オーケストラピットを覗いて
演奏者たちの姿を目にすることができたのは興味深かった。

ピッコロとフルートは持ち替えが基本で、奏者は両方のケースを膝に乗せており、
最後の音符を吹き終るやいなや、「Yes!」と言わんばかりにガッツポーズを取り、
その後素早くケースに楽器をしまっていたのがおかしかった。
この人たちにとっては毎日のことなのだ。

こんな素晴らしい舞台に何かの形で関われたらどんなに幸せだろうと胸が焦がれた。

※原作小説をはじめとする『オペラ座の怪人』について、日本語で楽しめる最高のサイトをご紹介。
http://www31.ocn.ne.jp/~phantomlover/

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2005年11月21日 23:49に投稿されたエントリーのページです。

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